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北欧的ライフスタイルの根底にあるもの。『HYGGE 北欧が教えてくれた、「ヒュッゲ」な暮らしの秘密』 (小さなことからはじめる、心地よい時間のつくりかた)

「ヒュッゲ」。
3日ほど前(2017年の11月ころの話)、
昼休みに書店を覗いたら、見慣れた棚の
一列を陣取って、5冊ほど、
「ヒュッゲ」関連の本が並んでいた。
どれもタイトルに「ヒュッゲ」という言葉が
入っている。この本は、その一冊。

ほほう。
「ヒュッゲ」って、注目されているキーワード
なんですね。

「ヒュッゲ」とは、デンマークノルウェーの「居心地のよい雰囲気」という
ニュアンスを伝える言葉。
「仲間との絆」や「思いやり」も意味します。(P6)

暖かい、ぬくぬくした部屋で、誰にも邪魔されず、
かたわらには、あっついミルクティーかコーヒーを置いて、
時間を気にせず読みたい、そんな本だ。
ま、基本、読書のお時間ってそうですけど。

ひとことでこの本の印象を言うならば、
北欧流のスローライフ、シンプルな生活の紹介、だろうか。
きれいな写真も多く、それこそ、ヒュッゲに満ちた本。

アウトドアを楽しむこと。
自然や家族を大切にすること。
料理し、味わい楽しむこと。
フィーカ(お茶の時間)を持つこと。
シンプルに暮らすこと。
心地よさを大切にすること。

そのどれも、この時代に改めて、
その価値が見直されていることばかり。

例えば、自然のなかで過ごすことについて。
「フリルフスリフ」という言葉も、この本で知ったが、
「ヒュッゲ」の重要な要素らしい。

「自然のなかで、ありのままに生きること」(P13)を
意味する「フリルフスリフ」。

「~北欧の人々にとって、
現代生活の喧騒から離れ、自然のなかで考えごとをしたり、
全体を見渡す感覚をやしなうことが大切なのです。」(P14)

私自身、週末は決まって、近くの山にハイキングに出かける。
だから、自然のなかで過ごすことが、
どれほどエネルギーのチャージになるか、
気持ちのリセットになるかは、しみじみと体感していることだ。

そして、この本で、はっとしたことのひとつは、
「北欧における体の価値」について。

ノルウェーで過ごしていた著者のシグナ・ヨハンセンは、
イギリスに暮らしてはじめて
身体に対する、北欧的な価値観に気がついたという。

長く厳しい冬の環境下では、
たくましい身体が求められているのが北欧。
だから、おのずと自然のなかでのアウトドアなどが盛んになる。
確かに、クロスカントリーなどの強豪国という
北欧のイメージがある。

けれども、日本を含めて、いわゆる先進国などでは、
見た目重視で、身体を鍛えたり、ダイエットに励んだりする。

「ボディイメージとメンタルヘルスに関する数々の研究が、
自分の体がどう見えるのかを気にするのは
自己否定と不安におちいるだけだといっています。」(P40)

 

「スリムな理想の体型なんて、完全にアンチヒュッゲな
発想です。」(P41)

もちろん、理想の体型に憧れを持ったり、目指すのはいいけれど、
それを最終目標にせず、自分の身体ができることに
まず注目し、自分に合う身体の動かし方を見つけよう、楽しもう、
と提案している。

ものすごく、共感する。

コンクリートの建物のなかで、身体を動かすジムは
私には向かない。
自然のなかで、身体を動かすほうが向いているし、
何より、楽しいしね!

確かに、スリムになりたいし、あと10キロ体重も落としたい。
でも、辛さとか修行的な反復は、あまり好きじゃない。
季節を身体全体で感じ、楽しみながら、身体を動かしたい。
それが私らしさ。

そんな風に、ひとつひとつ、生活のあれこれについて、
心の声にちゃんと耳を傾け、選びとっていくとき、
自然と「ヒュッゲ」な生活になっているはず。

そして、この本では、料理についても多くのページが
割かれている。
料理もまた、いかに生きるかに直結するから、
当然といえば、まあ当然かもしれない。
「ヒュッゲ」な北欧料理のレシピつき。
見るからに、どれもコレ、絶対おいしいでしょ!
と確信できるレシピが写真で紹介されている。

フィーカのおともに、
サワーチェリーのバントケーキ。
そして、スモークサーモンとアボガドのオープンサンド、
甘エビのカナッペ 北欧風、グラブラックスなどは
特にそそられる。

家族や友人、あるいは、自分のためだけでもいい、
丁寧に、旬の素材を、シンプルに料理する。
例えば、キャンドルを灯したテーブルで、
心地いい音楽を流し、ゆっくりおしゃべりしながら頂く。

この本に書かれている根底にある生き方は、
スローライフや、ミニマリズム、シンプルな生活スタイルと
同じだ。それが北欧的な視点から、ヒュッゲをキーワードに語られる点に
この本の特徴がある。

しかし、そもそも、「北欧」ってひとくくくりにして、
多様な文化をいっしょくたにする危険も孕んではいると思う。

でも、今、ヒュッゲなライフスタイルが注目されてきているのは、
「北欧」という地域が、すでにある程度の「文化的信頼」を
勝ち取っているからかもしれない。

北欧っといったとき、多くの人の頭に浮かぶ、
シンプルモダンなデザインセンスや、福祉の充実などで、
成熟した社会システムのイメージ。
どこかしら、おしゃれ感がただよっていますしね。

さて、なにはともあれ、
改めて、この人生で、自分が何を大切にしたいのか、
そんなことが見えてくる、心地良さが詰まった本でした。