35club

おもしろかった本やマンガを紹介しています。

愛についての物語 in 庭球。『エースをねらえ!』。

「テニス王国」と呼ばれる、全国トップレベルの実力を誇る西高テニス部。
高校生になったひろみは、お蝶夫人に憧れ、テニス部に入る。
ひろみが、テニスや恋愛を通して、成長していく青春物語。

山本 鈴美香『エースをねらえ!』全10巻 (ホーム社漫画文庫)

「この物語を一言で伝えるなら?」
ずばり「愛がテーマです。」、そう答える。

テニス部の先輩たち。そして、宗方コーチ。
かくも魅力的な面々に愛されるひろみ。
正直、一読したとき、なぜ???と不思議だった。

すでに高校のテニス界のトップであり、そのうえ、
生徒会の仕事までこなす先輩たち。
そう、彼らはスーパー高校生なのである。
しかも、イケメンと美女。

さらには、誠実で、高い志しを持ち、努力を惜しまず、
という性質まで兼ね備えている。
ええ。驚かされますよ。この人たちには。
まだ10代ですよ。

ただ、これはテニス界でトップを目指す人たちの物語。
それを考えると、目指す夢があり、そこに心血を注ぎ、
たゆまぬ努力を重ね、技と精神を鍛え上げるという
プロセスのなかで、そういった高潔さを身につけた、
とも言えるだろう。

そう、特にお蝶夫人と藤堂さん。

後に、テニスプレイヤー岡ひろみの「生みの親」と言われるお蝶夫人
エースをねらえ!』を読んでいなくても、名前はどこかで耳にしたことが
ある方もいるだろう。
これは、その蝶のように美しい、テニスのプレイスタイルからつけられた
ニックネームだが、本名も「竜崎麗香」という華麗な名前を持つ
女子ジュニアテニス界の花形トッププレイヤー。
そのうえ、美人で、お金持ちで、、、、と何拍子も揃っている。
また、どこに時間があるのか、生徒会副会長もやっている。
さらに、とことん努力家でもある。まさに、言うコトなしのお方。
(ここで、『ガラスの仮面』の亜弓さんを思い出すのは、私だけでは
ないはず。)
ただ、最初のうちは、コーチに目をかけられているひろみへの、
嫉妬を剥き出しにした取り巻き女子たちに、翻弄される姿も。
しかし、もともとの気位いの高さと優しさ、品の良さがあるので、
ドロドロした感情は持ち合わせていない。

そして、お蝶夫人と並び、ひろみに大きな影響力を与え、支える藤堂さん。
かっこ良くて人気者、さらに、ジュニアテニス界のトッププレイヤー。
生徒会長までなさっている。
そして、この方、なんといっても、本当に高校男子ですか?!
といいたくなるほどの、精神的に成熟している。

 

さて、そんな先輩からも一目置かれ、尊敬されるようになる、
岡ひろみの「育ての親」と言われる、宗方コーチ。
彼を、もうひとりの主人公、と呼んでも差し支えないだろう。
なんと、影がある人だろう。
なんと、ドラマチックな生を受けたのだろう。
彼は、思いっきり、幼少期のトラウマを引きずっているのだが、
それが彼を彼たらしめている。
20代でありながらの指導力と、ひろみを見いだした才能と執念。
彼とひろみとの出会い。そして、築かれる師弟関係。
この話のハイライトはここにある。

はじめのうちは、そんな彼らに愛されるひろみの
魅力がいまひとつわからなかった。
しかし、未来のカメラマンとして、ひろみを追い続ける
お千葉(おちば)のこの言葉に、その理由が端的に語られる。

岡さんのまわりには彼女が好きで
無条件で力になる人がおおぜいいます。
彼女自身が無条件で
テニスにうちこんでいるからです。

まっすぐ、まっすぐ、素直で明るいひろみ。
周りの人々に支えられながら、ひろみが精神的、技術的に
鍛え上げられ、成長する姿は、羨ましくさえなる。

エースをねらえ!』は、単なるスポ根ものでは、けっしてない。
むしろ、こんなふうに人を愛せるのだと、
こんな愛し方があるのだと、気がつかせてくれる、
愛についての物語なのだ。