35club

おもしろかった本やマンガを紹介しています。

ザワザワが続く、『わたしを離さないで』。

昨年2017年のノーベル文学賞カズオ・イシグロが選ばれた。

読むべくして、このタイミングで、イシグロ作品を読んでみた。

 

いま読まないで、いつ読む?と手に取ったわけである。

ずっと気になりつつ、手を出さなかった作家だったからだ。

そして今回、後押しとなったことも、あと2点ほどある。

 

まずは、新聞各紙に掲載された選考委員会のイシグロへの評価の抜粋。

「私たちが世界とつながっているという幻想に隠されている闇を

明らかにした」というコメント。

え?? どういうこと?

と、いまいちピンとこなかったこと。

 

そして、『わたしを離さないで』。

そう、周りにタイトルを言うと、たいてい読んでいなくても

「ああ、臓器提供の話でしょ?」反応が返ってくる。

 

これから読もうとしている本を、読んでいない人に

一言で片付けられたくない、と勝手にムクムクした気持ちになる。

 

ま、とにかく、なんだかんだ言っても、

ノーベル文学賞の受賞がきっかけで、

カズオ・イシグロの世界に足を踏み入れることになる。

 

 

『わたしを離さないで』。

この本は、介護人キャシーの視点で語られてゆく物語。

子ども時代を過ごした「ヘールシャム」でのできごと。

そして、現在の介護人としての生活について。

たんたんと、抑えられた筆づかいで綴られていく。

 

冒頭から、さまざまな疑問が沸いてくる。

散りばめられた謎に誘われるまま、答えを探し求め、

どんどん目は先へ先へと急ぐ。

久しぶりの小説だったが、心はやる読書体験を楽しんだ。

 

「ヘールシャム」とは、いったい何なのか?

「マダム」とはいったい何者なのか?

なぜ、「マダム」は生徒の優秀な作品を持っていくのか?

なぜ「ヘールシャム」は特別なのか?

提供者と介護人の役割は、いつどこで決まるのか?

・・・

 

仕掛けられた多くの謎を紐解いてゆく快さ。

そしていまだ残された謎。

 

残酷さや壮絶な表現や記述があるわけでもない。

語りも抑制が効いている。

そのためか、起きていた様々なことの奇妙さが

際立ち、緊張感が漂い続ける。

 

そう。「静かに奇妙な世界」なのだ。

 

読み進めながらも、また読み終わってからも

とりとめのない浮遊感のなかにいる。

再び、読み返してみよう、そう思った。

 

そして、さらに、他のイシグロ作品にも

はまりたくなった。