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民俗学の名探偵、宗像教授の活躍について。『宗像教授シリーズ』。

このたび、星野 之宣(ほしの ゆきのぶ)による『宗像教授シリーズ』を紹介したい。

 

日本各地で起こる、摩訶不思議で、怪奇な事件の数々。

名探偵ポワロよろしく、事件現場に必ず居合わせるのが、

大東文化大学民俗学教授、宗像伝奇(むなかた ただくす)である。

 

まず、彼の風貌に注目したい。

そのいでたちはポワロさながらだ。

ムッシュ・ポワロは小柄で有名だが、

宗像教授はガタイから見ておそらく大柄。

それを除けば、口ひげに、ステッキ、ホンブルグハット、

そして、ベストにロングコートというスタイルは、

まさにポワロを意識してのことだろう。

難問解決の立役者は、やはりこだわりが強いところも

共通している。

さて、この宗像教授が活躍する『宗像教授シリーズ』は、

主に、『宗像教授伝奇考』(むなかたきょうじゅでんきこう)と

その続編の『宗像教授異考録』(むなかたきょうじゅいこうろく)から

構成される。

 

このシリーズでは、 日本や世界各地の民話や伝承を手がかりに、

宗像教授が、その地に起こる事件を解決したり、謎を探ってゆく。

その事件簿であるが、各話がそれぞれ完結していることが多い。

そのため、どの巻から読んでも、楽しめる。

 

例えば、『宗像教授伝奇考』(第2集)に収録されている

第7話「両面宿儺(りょうめんすくな)」。

 

奇妙な道祖神があると聞き、岐阜県高山市郊外の村を、

宗像教授が訪れる。

 

同じ頃、その村で、営林署の仕事で山に入った男性が、

人の横顔みたいな模様が入ったクモに咬まれる。

 

宗像教授が地元の人に案内された山間で見たのは、

両面宿儺(りょうめんすくな)が彫られた石像だった。

 

日本書紀ではただの”宿儺(すくな)”だが

双頭双身(そうとうそうしん)のため

両面宿儺(りょうめんすくな)と呼ばれる

左右二本ずつの腕で剣と弓矢を使い

暴虐ぶりが朝廷に聞こえた

時の天皇仁徳は

難波根子武振熊(なにわのねこたけふるくま)という

武人を遣わして

これを攻めさせ

ついに殺したという」(宗像教授)

 

そして、宗像教授一行が石像を見た直後に、

突如!そばにあった土砂が急に崩れ落ち、

地下に続くスクナ洞を発見する。

そこは辺り一面、積み重なった古代人の骨があった。

そのなかに、なぜか、ヒンズー教の火の神「アグニ」の像が

佇んでいる。

 

ヒンズー教バラモン教ヒッタイト系などの

金属器文化を持つ人々の日本への渡来、

スクナグモ、土蜘蛛(つちぐも)との関係、、、。

宗像教授の説は、刺激的で探求心をそそる。

 

続いては、『宗像教授異考録』(第2集)第2話、

「割られた鏡」を紹介しよう。

 

魏の銅鏡が、奈良県箸墓古墳から発見された。

邪馬台国卑弥呼へ送られたと考えられる銅鏡の発見は、

畿内説を後押しするものだった。

 

これにより、邪馬台国の場所をめぐる、長きにわたる

九州説、畿内説の論争に決着はつくのだろうか?

 

そんな時、宗像教授のもとに見知らぬ男から、

一本の怪しげな電話が入る。

その男の希望で、奈良の箸墓古墳で待ち合わせをすることにしたが、

いざ、そこへ着いてみると、

電話の男が、突然転げ落ちてきて!息を引きとってしまう。

 

息も絶え絶えに、男が発した最後の言葉が「阿蘇、山門村」。

それを聞いた宗像教授は、村を訪れる。

 

しかし、そこには、なぜか箸墓古墳で銅鏡を発見したという

大学教授がすでに到着しており、何かを探していた。

 

村人たちのよそよそしい態度。村での古墳の発見。

 

はたして、邪馬台国は本当はどこにあったのか。

 

宗像教授シリーズを読むたびに、

各地の民話や言い伝え、さらには歴史への興味が

大きくなってくる。

 

その土地や場所の自然環境、風土、慣習、暮らし、

言い伝えには、もちろん密接なつながりがある。

風習や行事から見えてくる、人々の信仰のありか。

 

ある土地や場所を訪れたときに、感じられることのある

気配とか、エネルギー的なものは、

人々の意識と自然が作用し、産み出されるのだと、つくづく思う。

 

そんなことを考えていて、ふと思い出してしまうのは、

以前、旅をした沖永良部島での体験だ。

 

あれは11月だった。

その日のキャンプ地として予定していた公園に着いた。

もう日もすっかり落ちて、あたり一面の暗闇だった。

車から降り、テントを張ろうとしたとき、

その場の異様な空気にたじろぎ、テントを張るのをやめた。

 

結局、車のなかで眠った。

翌朝、目覚めると、目に飛び込んできたのは、

すばらしく晴れ渡った空のもと、

石灰岩の岸壁のなかにできた風葬跡だった。

 

あの夜に感じた、強力ななにか得体の知れない気配は、

いったいなんだったのかは、わからない。

けれども、不思議な体験として、いまでも

島の旅のハイライトとなっている。

この『宗像教授シリーズ』では、

かつて、どこかで耳にしたことがある、

もしくは、時間にすっぽりと埋もれた伝承が、

星野之宣の巧みな筆致とストーリーによって、

いきいきと現代に描き出されている。

 

宗像教授の行動範囲というか、出没範囲は世界に及ぶ。

名探偵ポワロのパートナー、ヘイスティングス大尉のように、

宗像教授とともに、伝承が息づくさまざまな土地を

一緒に訪ね歩きたいものである。

 

星野之宣の他の作品も、実におもしろい。

ヤマタイカ』、『星を継ぐもの』などの

感想も、今後綴っていく予定です。



『宗像教授シリーズ』詳細は、下記のウィキペディアを参照してほしい。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%97%E5%83%8F%E6%95%99%E6%8E%88%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA