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おもしろかった本やマンガを紹介しています。

「極東は苦戦しております。」と訴える、田家実地子の革命について。『黄色い本』。

打ちのめされ、心震える本との出会い。

物語の住人になって過ごす、あの浮遊感。

そんな読書体験。

 

そんな体験を、こんなふうに表現できるなんて!

 

物語は、地方の高校生、田家実地子が、バスに揺られながら、

図書館からかりた、黄色い本(『チボー家の人々』)を

読んでいる場面から始まる。

 

黄色い本 ジャック・チボーという名の友人 (KCデラックス アフタヌーン) [ 高野文子 ]

 

寝ても覚めても、黄色い本の登場人物たちが頭にある田家実地子。

 

ジャック
家出したあなたがマルセイユの街を
泣きそうになりながら歩いていたとき、
わたしがそのすぐ後を歩いていたのを知っていましたか?

 

まずは、田家実地子が黄色い本に浸る様子に、

こちらも浸ってしまう。

 

しかし、繰り返し繰り返し読んでいるうちに、はっとした。

もしかすると、これは田家実地子の「革命」の物語なのでは、と。

 

田家実地子の「革命」とはなんなのだろう。

 

ジャック聞こえますか
従妹さんが泣くので革命ができません。
カア様が起きるので革命ができません。

 

「極東は苦戦しております。」

その田家実地子の言葉に含まれる、ある種の高揚と抵抗と混乱。

 

黄色い本を心ゆくまで読みたいのに、

もういいかげん寝なさい!と母親に言われる家庭の現実。

 

そして、もうひとつは、就職する、という差しせまる

社会の現実。

 

その環境とは、すっかりかけ離れている黄色い本の世界。

 

しかし、その異次元の世界の住人、ジャックと会話することで、

なんとか、現実世界と折り合いをつけよう、

受け入れようとする姿を捉える。

 

ジャックから田家実地子へ。

田家実地子から読者へ。

紡がれる読書体験。

ああ。やはり、この本の引力は、そこにあるのだ。

黄色い本 ジャック・チボーという名の友人 (KCデラックス アフタヌーン) [ 高野文子 ]